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よこまちポストON AIR vol.5「道路拡幅とまちづくり-福島県三春町における実践-」

 まちづくりギャラリーよこまちポストのオンライン番組「よこまちポストON AIR」。第5回目となる今回は、住みよさを大切にしたまちづくりの蓄積の上で、道路拡幅をきっかけに美しい町並みを実現した、福島県三春町におけるまちづくりについてお話を伺いました。


開催概要 日時:2020年9月5日(土) 18:00-19:00 開催方法:ZOOMを用いたオンライン・リアルタイムでの開催 概要:福島県三春町は郡山市に隣接する城下町です。1983 年地域住宅計画を策定し、地域の住文化に根ざした住まい、まちづくりを継続してきました。都市計画道路拡幅事業に合わせた、商店街でありながら隣近所に配慮した平入りの街並み整備、蔵並を生かした歴史を感じる裏道整備、歩道を広げ歩きやすい街並み整備を行い、美しく快適でかつ住みよいまちづくりを実践してきました。三春におけるまちづくりの第一人者である岩田先生に、そのエッセンスをお話しいただきます。


日本の住宅の基本形:木造住宅

 三春のまちづくりのポイントは「住まい」からのまちづくり。先生のお話はまず、日本の住まいの基本型である木造住宅の建て方の解説から始まります。日本の全住宅の半数を占める木造住宅では柱と梁から成る8畳間を1つのユニットとし、このユニットを水平方向と垂直方向に拡張させて、間取りを構成していきます。日本で木造住宅が基本とされている理由は、その気候にあります。他の先進国に比べて、高温多湿である日本では、広い開口部をもつ軸組構法の木造住宅が適しているのです。


木造住宅の屋根を考える:気候風土に合わせて揃う家並み

 続いて、木造住宅の重要な要素である「屋根」について考えていきます。日本の木造住宅の屋根には「平入」と「妻入」の2種類があります。写真の上段のように、屋根の平側(軒の出がある側)を通りに向けているのが「平入」、下段のように、妻側を通りに向けているのが「妻入」です。



 町家のように隣の建物との距離が近い場合や、気候が比較的穏やかな場合は平入の屋根が多いですが、豪雪地帯では雪を通り側に落とすと通行に支障が出るため、妻入の屋根が多くなります。このように、土地の気候風土によって合理的な屋根の形状が決まっており、それに従うことで、家並みが揃った、住みよく美しい景観が実現します。

 三春では、住民へ聞き取り調査をした際に、妻入の建物を建てると屋根から滑りおちた雪が隣の建物の壁や室外機を壊してしまうという報告があり、平入屋根で揃えることになりました。そして、屋根の形状が揃った美しい町並みが実現したのです。


道路の性格に応じたまちづくり

 三春の道路は、表通りと裏通りに分けられます。まちの中心にある表通りは、拡幅の対象となった道路で、通り沿いに間口が狭く奥行きの長い建物が建ち並んでいます。一方で、山際や川沿いには細い裏道が通っています。約40年前、岩田先生が三春のまちづくりに携わり始めた頃、表通り沿いには歴史的な様式ではない建物が多い一方で、裏通り沿いには古い蔵が多く、歴史的景観が残っていました。



 表通りでは、通りの両側が拡幅され、拡幅を契機に町並みの整備が進められました。片側拡幅に比べて地権者が2倍となる両側拡幅が選ばれたのは、拡幅を契機に町並みをグレードアップしたいという当時の町長の思いからだそうです。建物1つ1つが目立つ訳ではなく、通り全体として町並みが揃っていることが、三春の町並みの美しさを生み出しています。建物の整備と合わせて、歩行者空間の充実、電線の地中化、デザイナーが手がけた街灯の整備を行いました。

 メインストリートとしての華やかさがある表通りに対して、裏通りは落ち着いた町並みを目指しました。現存する蔵を大切にするとともに、舗装のデザイン等に取り組みました。



地元の家づくりの担い手との協働

 三春のような地方都市では、町内の住宅設計を地元の大工や工務店が手がけていることが多いです。このような場合、地元の住宅設計の担い手と一緒にまちづくりをしていくことが重要です。三春におけるまちづくりは、初期から岩田先生たち専門家チームと地元大工が一緒に住民への聞き取り調査をし、まちづくりの方向性を決めて行きました。その後、地元大工が、施主の要望とまちづくりのルールとの調整役や、まちづくりのルールを運用する景観審査会の主要メンバーとして活躍し、三春の町並みは長きにわたり守り続けられています。


住みよく美しいまちをつくるために-

 三春におけるまちづくりにおいては「美しさ」とともに「住みよさ」が重視されました。美しいまちをつくりたいということだけでは、そこで実際に生活する人たちを説得することはできません。「まちづくりには論理が必要である」と岩田先生は強調します。例えば、屋根を平入で揃えるのは隣の住宅に雪を落として迷惑をかけることのないように。家の高さを2階建のレベルに抑えるのは、風致地区となっている城山の緑が見えなくならないように。住みよいまちをつくるルールを守ることが結果として美しいまちづくりにつながるという仕組みになっているのです


 三春におけるまちづくりのお話を伺い、道路拡幅をきっかけとしたまちづくりにできることの大きさを再確認しました。まちが大きく変わるタイミングでの取り組みが、その後のまちのあり方や方向性を左右します。また、プランナーが論理を持ってまちづくりをすることと同時に、ビジョンやルールについての議論の段階から関わっているまちづくりのプレイヤーが地域にいるということが、その後のまちづくりがうまくいくかどうかを決めます。

 岩田先生、参加者のみなさま、ありがとうございました。


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Produced by Keio University and the University of Tokyo   富士吉田市の魅力ある街のデザイン調査研究

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